安宿の楽しみ
セラピストの土田です。ブログのテーマは珍道中ということですが、珍道中という言葉の響きはなんとなく楽しげな感じですが、実際には結構大変なことが多いと思います。ぼくは旅行なんかではあまり計画性のある方ではないので、旅費が底をつきはじめ、安宿さがしをするはめになることもあります。安宿といえば相部屋の所が多いのですが、やはり一人でいるよりはいろいろな交流があり楽しいのではないかと思います。たまにバックパッカーの旅自慢にうんざりさせられたり、お金や物を取られたりしましたが、だいたいが気の良い連中であることが多いと思います。今日はその中でも思い出に残っている宿のことを書きたいと思います。
スロバキアの首都、ブラチスラバは隣国のチェコなんかに比べると、あまり活気がなく少し寂れた感じを受けます。ぼくが泊まっていた『ウ・ハッタルー』は首都の中心部から10キロか20キロくらい離れた所にあり、周りには家事で焼け残ったプレハブが並び、廃車やゴミが散乱しているアパートのような宿で、出入りしている人たちもアジア人の肉体労働者や毎晩違う男性を部屋に連れ込む女性、ロマ(ジプシー)風の老女などさまざまで中にはそこに住んでいる人もいるようでした。シャワーはもちろんお湯は出ませんし、トイレも詰まって使えない感じでしたが、それ以外はわりと快適で住人たちの生活感がホテルやユースホステルなんかと違い妙に安心感を与えてくれました。ただ油断しているとすぐに食べ物やライターなんかは盗まれましたけどね。
そこの女性の主人は宿の経営以外にもゴミのリサイクルをしているようでよくゴミを載せたトラックがやってきてソファーやベッドなんかが運び込まれていました。15日間ほど滞在していましたが、いつの間にかリサイクルの手伝いをさせられていて、ベッドの片側を持っていたり、一人でソファーを持ってみろと言われて、持ってみるとおおげさに驚かれ、腕をつかまれて力持ちだとほめてくれたりしましたが、そのうちぼくのノルマまで決められていました。何となく小学生の頃に先生に「力持ちの子はこっちに来てー」と呼ばれて荷物運びをやらされたのを思い出しました。
家の周りには二匹の犬が放し飼いにされていて、ほとんどほったらかしという感じでした。ぼくは都会育ちなのであまり放し飼いの犬を見たことがなかったのですが、ゆったりとした野性的な動きはつながれた犬とはイメージが違い、ぼくははじめて「犬ってきれいなんだなー」と思いました。あまり人なつっこくなくて、ぼくがかまってほしくてちょっかいを出してもほとんど無視、そのうちじゃまだったのかどこかに行ってしまいました。
夜になると宿の周りではゴミに火がつけられかなり大規模に燃やされるので、ひょっとして焼けたプレハブもこれが原因だったのではと思うほどの燃やしぶりでした。火の番をする人影がゆらゆらしているのを窓から眺めていましたが、気になって外に出て見に行くと、ちょうど入れ違いで、火の周りには誰もいなくなっていました。火を見ているとむき出しになったベッドのスプリングや溶けたプラスチック容器、割れたビンなんかが無造作に入れられていて、それらのゴミが少しずつ形を変えていくのを、炎の動きとあいまっていつまでも飽きずに見ていました。
しばらくすると宿のほうから子供がやってきて、近くに座り何か言いたげでモジモジしていましたが、お互い言葉をしゃべれないので二人してモジモジしながら火を見ていましたが、持っていたカメラを向けると恥ずかしがってどこかに行ってしまいました。もし言葉が分かればいろいろ伝えることも出来たんだろうなーと思い少し残念だったのですが、お別れの時にはちゃんと握手してさよなら出来たのでまあ良かったかなとも思います。
旅行中思わぬ方向に進み、いろいろな体験をするのは意外と自分に足りない物に気付かされたり、心に残る体験があったり、有意義なことが多いと思います。ですからぼくは旅行の時はあまり計画を立てず、多少スキを作るぐらいのつもりでいることが多いです。そのほうが何となくいろいろな珍しいものに出会えそうな気がしますしね。